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「フレームワーク30選」が使いにくい理由。性質の異なる4種類が混ざっている

この記事の結論。マーケティングのフレームワークは、エビデンスの取れ方で4種類に分かれます。統計的検証があるもの、成果を帰属できないもの、事例に数値がないもの。同じ粒度で並べると、どれを根拠にしてよいか判断できなくなります。

公開
2026年8月22日
著者
Web Director for SEO & Content
4種類のフレームワークを、表・天秤・分岐図・道のりの絵に分けて並べた図

対象読者:マーケティングを初めて学ぶ人。高校生でも迷子にならないよう、「何を考えるフレームワークか」と「どんな根拠があるか」を分けて説明します。

マーケティングのフレームワークを、考える目的ごとに分けるイラスト

「マーケティングフレームワーク30選」のような記事は、4P、STP、SWOT、3C、AARRR、JTBD、60:40 を同じ見出しレベルで並べます。

読者は、何を根拠に考えればよいか判断しにくくなります。どれが統計で検証されていて、どれがそもそも検証の対象にならないのかが、並べ方から読み取れないからです。

一次情報に当たってみると、これらはエビデンスの取れ方で4種類に分かれます。

4種類は「根拠の取れ方」で分かれる

種類 例 エビデンスの取れ方
整理・計画のフレームワーク 4P、STP、SWOT、3C、PEST、BCG 成果を帰属できない。 何を考慮するかのチェックリストであり、単独で効果測定の対象にならない
経験則・法則 60:40、95:5、ESOV、Double Jeopardy、CEP 統計的な検証がある。 IPA Databankや購買データの分析が根拠
発想・分析の手法 JTBD 事例はあるが成果数値がない。 発想法の説明例として書かれている
成長の実装 AARRR 個別企業の数値がある。 ただし公開企業の自己申告が主

先に断っておきます。これは有用性の順位ではありません。 「整理のフレームワークは役に立たない」という話ではなく、根拠の種類が違うという話です。

整理・計画のフレームワークに「効果の根拠」を求めるのは筋違い

4Pに「4Pを使うと売上が何%伸びる」という研究があるかというと、構造的にありません。4Pは考慮すべき変数の分類であって、施策そのものではないからです。

このことは、4Pの成り立ちを見ると分かりやすくなります。査読論文 Van Waterschoot & Van den Bulte「The 4P Classification of the Marketing Mix Revisited」(Journal of Marketing 56(4)、1992年)は、4Pが登場した当時、Howard (1957)、Frey (1961)、Lazer & Kelly (1962) など複数の分類が並立していたと記述しています。

そのうえで、提案された多くの図式のうち McCarthy のものだけが生き残り、"dominant design"(支配的な設計)あるいは "received view"(通説)になった、と書かれています。

出典:The 4P Classification of the Marketing Mix Revisited(1992年10月/全12ページを読了)

つまり4Pは、効果が検証されて残ったのではなく、分類として使われ続けて残ったものです。だから「4Pの効果を示すデータはあるか」という問いは、最初から噛み合いません。

これは4Pを否定する話ではありません。何を考慮するかを漏らさないためのフレームワークとして機能します。そのフレームワークに対して、施策と同じ種類の根拠を要求しない、というだけです。

経験則・法則には、検証と但し書きがセットで付いてくる

一方で60:40のような経験則には、統計的な分析が背後にあります。Binet & Field の一連の報告書は IPA Effectiveness Databank を分析したもので、IPAが発行しています。

出典:The Key Works of Les Binet & Peter Field(IPA)

ここで重要なのは、検証があるものには、たいてい但し書きも付いていることです。

B2B向けの報告書(LinkedIn B2B Institute「The 5 Principles of Growth in B2B Marketing」、全38ページを読了)には、著者自身がこう書いています。

  • findings are tentative(暫定的である)
  • B2B事例は少なく、標本は50件未満
  • IPA Databankは効果の高いキャンペーンに偏る
  • 英国に偏る
  • 予算が比較的大きい案件に偏る

比率についても「厳密に従うべきではなく指針。小標本のため粗い推定しかできない」と明記されています。

出典:The 5 Principles of Growth in B2B Marketing(Binet & Field)

経験則を使うときに確認すべきなのは、数字そのものより、その数字がどの標本から導かれたかです。

発想法の事例には、成果数値がないことがある

JTBD(Jobs to Be Done)の代表例として広く紹介されるミルクシェイクの話は、Christensen / Cook / Hall の論文で初めて紹介されました。HBSが公開している抜粋で全文を読みました。

出典:What Customers Want from Your Products(HBS Working Knowledge、2006年1月16日)

原典には、この事例の売上・利益などの成果数値が一切書かれていません。 より濃くする、果肉を入れる、機械をカウンター前へ移してプリペイドカードで売る、といった改善案は述べられていますが、実施結果の記載はありません。全文を読んで不在を確認しました。

これは「JTBDに効果がない」という意味ではありません。原典が効果測定の事例として書かれていないということです。発想法の説明例です。

だから、この事例を「JTBDで売上が伸びた例」として数値を伴わせて紹介すると、原典にない話を足すことになります。

成長の実装には、個別企業の数値がある

AARRR のような実装寄りの枠組みには、個別企業の公開数値が付くことがあります。

Dropbox の紹介プログラムについて、創業者 Drew Houston 本人の講演資料(2010年)にはこう書かれています。

  • 2008年9月に登録ユーザー10万人、15か月後の2010年1月に400万人
  • 2面インセンティブの紹介プログラムがサインアップを恒久的に60%増やした
  • 日次サインアップの内訳は、紹介プログラム経由35%、共有フォルダなど他のバイラル機能経由20%

出典:Dropbox Startup Lessons Learned(2010年)

数値はありますが、公開企業の自己申告です。第三者による検証ではありません。ここでも、数値を誰が示したのかを確認しておく必要があります。

4種類に分けると、提案の書き方が変わる

この4分類を通すと、提案の書き方が変わります。

「4Pで整理しました」に効果の根拠を添えようとしない。 整理の網羅性を示せば十分で、そこに数字を求めるのは種類の取り違えです。

「60:40で配分します」には、標本と但し書きを添える。 どの報告書のどの数字か、標本はどれだけか。それを書けないなら、指針として使っていると明示する。

「JTBDで成功した事例があります」と言うときは、その事例に数値があるか確かめる。 原典に無ければ、発想法の説明例として紹介する。

「他社は紹介プログラムで伸びた」と言うときは、自己申告かどうかを見る。 検証されたデータと、企業が自分で出した数字は違います。

提案の根拠が崩れるのは、たいてい根拠の種類を取り違えたときです。数字がないことより、ないものをあるように見せることのほうが問題になります。

よくある質問

Q. この4分類は、誰かが提唱している学説ですか?

A. 違います。 一次情報を確認したうえで、この記事で整理したものです。 学術的に確立した分類ではありませんし、そう呼べる根拠もありません。

分類の中身(4Pが複数の並立分類から生き残ったこと、B2B報告書が標本50件未満と明記していること、ミルクシェイクの原典に成果数値がないこと)は、すべて一次資料で確認した事実です。その事実を4つにまとめた線引きのほうが、この記事の判断にあたります。

線の引き方が違えば、別の分け方もあり得ます。そのまま定義として引用するのではなく、根拠の種類を分けるという考え方のほうを使ってください。

Q. 見たことのないフレームワークに出会ったとき、どの種類か見分ける方法はありますか?

A. 3つ順に聞くと、たいてい決まります。

  1. 「これを使わなかった場合」と比べられるか。 比べられないなら整理・計画のフレームワークです。4Pを「使わない」状態は定義できません
  2. 数字の裏に、母集団と期間があるか。 あるなら経験則・法則です。60:40なら IPA Databank、期間は1998–2018のように追えます
  3. その数字は誰が出したか。 第三者の分析なら経験則、当事者の自己申告なら成長の実装です

どれにも当てはまらず、事例だけがあるものは発想・分析の手法です。JTBDがここに入ります。

見分けがつかないときは、成果数値が付いているかどうかを最初に見ます。 数値がないものに効果の根拠を求めても、出てきません。

Q. 「4Pに効果の根拠はあるの?」と聞かれたら、どう答えればいいですか?

A. 「ありません」で終えると、フレームワークごと否定されます。 3段階で答えます。

  1. 問いを言い換える。 「4Pの効果を測った研究はありません。4Pは施策ではなく、考慮する変数の分類だからです」
  2. 代わりに何を測るかを示す。 「測れるのは、4Pで洗い出した個々の施策のほうです。価格を変えた、チャネルを変えた、その結果どうだったか」
  3. フレームワークの役割を言う。 「4Pの役割は、検討漏れを防ぐことです。効果を出す手法ではなく、抜けを見つけるためのチェックリストです」

問い自体が噛み合っていないことを、否定せずに伝えるのがポイントです。「根拠がない」と言うと、相手には「使えない」と聞こえます。

Q. 提案書には、どの種類のフレームワークから使えばいいですか?

A. 順番があります。整理のフレームワーク → 発想の手法 → 経験則 → 実装です。

  • 整理のフレームワーク(4P・3C・SWOT)を最初に置くのは、検討漏れを見つけるためです。ここで抜けを潰しておかないと、後の施策が偏ります
  • 発想の手法(JTBD)は、整理で出た項目に中身を入れるときに使います
  • 経験則(60:40・95:5)は、配分や優先順位を決める段階で出します。先に出すと、前提を確かめる前に数字が独り歩きします
  • 実装(AARRR)は、施策が決まってからです

経験則を冒頭に置いた提案書は、たいてい数字が結論になっています。 順序を守るだけで、その事故が減ります。

Q. 経験則の但し書きは、提案書にどこまで書くべきですか?

A. 1行でよいので、必ず入れます。 全部は書きません。

入れるのは**「その数字が壊れる条件」**です。60:40なら「標本50件未満・英国中心・受賞応募に偏る」のうち、相手に関係するものを1つ。日本のBtoB企業に出すなら「英国中心の小標本」の一言で足ります。

書く場所は数字の直後です。 脚注や巻末に回すと、読む人と読まない人が分かれます。数字と但し書きが同じ行にあれば、切り離して引用されにくくなります。

判断が変わらない但し書きは省いて構いません。判断が変わるものだけを残すと、たいてい1行に収まります。

まとめ:フレームワークを選ぶ前に、根拠の種類を先に見る

  • 同じ「フレームワーク」でも、根拠の取れ方は4種類に分かれる——整理・計画のフレームワーク、経験則・法則、発想・分析の手法、成長の実装
  • 整理のフレームワークに効果の根拠を求めるのは噛み合わない。 4Pは施策ではなく、考慮する変数の分類として生き残ったもの
  • 検証がある経験則には、たいてい但し書きも付いている。 数字より、どの標本から出たかを見る
  • 発想法の事例に成果数値があるとは限らない。 ミルクシェイクの原典には売上・利益の記載がない
  • 実装の数値は自己申告のことがある。 誰が出した数字かまで確認する
  • 提案書で使う順番は、整理 → 発想 → 経験則 → 実装。経験則を先に出すと、数字が結論になる

出典一覧

# 出典 発行 確認状況
1 The 4P Classification of the Marketing Mix Revisited(Van Waterschoot & Van den Bulte、Journal of Marketing 56(4)) 1992年10月 全12ページを抽出し、歴史記述の該当箇所を読了
2 The Key Works of Les Binet & Peter Field(IPA) 掲載日不明 本文確認
3 The 5 Principles of Growth in B2B Marketing(Binet & Field、LinkedIn B2B Institute) 発行年の記載なし(分析対象1998–2018) 全38ページを抽出して確認
4 What Customers Want from Your Products(Christensen / Cook / Hall、HBS Working Knowledge) 2006年1月16日 該当事例の全文を読了
5 Dropbox Startup Lessons Learned(Drew Houston) 2010年 本文確認(数値スライドを取得)

いずれも2026年8月17日に確認しています。


執筆者

Web Director for SEO & Content。フレームワークの役割と、根拠の種類を分けて説明します。

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公開日
2026年8月22日
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