対象読者:マーケティングを初めて学ぶ人。高校生でも迷子にならないよう、「何を考えるフレームワークか」と「どんな根拠があるか」を分けて説明します。

「マーケティングフレームワーク30選」のような記事は、4P、STP、SWOT、3C、AARRR、JTBD、60:40 を同じ見出しレベルで並べます。
読者は、何を根拠に考えればよいか判断しにくくなります。どれが統計で検証されていて、どれがそもそも検証の対象にならないのかが、並べ方から読み取れないからです。
一次情報に当たってみると、これらはエビデンスの取れ方で4種類に分かれます。
4種類は「根拠の取れ方」で分かれる
| 種類 | 例 | エビデンスの取れ方 |
|---|---|---|
| 整理・計画のフレームワーク | 4P、STP、SWOT、3C、PEST、BCG | 成果を帰属できない。 何を考慮するかのチェックリストであり、単独で効果測定の対象にならない |
| 経験則・法則 | 60:40、95:5、ESOV、Double Jeopardy、CEP | 統計的な検証がある。 IPA Databankや購買データの分析が根拠 |
| 発想・分析の手法 | JTBD | 事例はあるが成果数値がない。 発想法の説明例として書かれている |
| 成長の実装 | AARRR | 個別企業の数値がある。 ただし公開企業の自己申告が主 |
先に断っておきます。これは有用性の順位ではありません。 「整理のフレームワークは役に立たない」という話ではなく、根拠の種類が違うという話です。
整理・計画のフレームワークに「効果の根拠」を求めるのは筋違い
4Pに「4Pを使うと売上が何%伸びる」という研究があるかというと、構造的にありません。4Pは考慮すべき変数の分類であって、施策そのものではないからです。
このことは、4Pの成り立ちを見ると分かりやすくなります。査読論文 Van Waterschoot & Van den Bulte「The 4P Classification of the Marketing Mix Revisited」(Journal of Marketing 56(4)、1992年)は、4Pが登場した当時、Howard (1957)、Frey (1961)、Lazer & Kelly (1962) など複数の分類が並立していたと記述しています。
そのうえで、提案された多くの図式のうち McCarthy のものだけが生き残り、"dominant design"(支配的な設計)あるいは "received view"(通説)になった、と書かれています。
出典:The 4P Classification of the Marketing Mix Revisited(1992年10月/全12ページを読了)
つまり4Pは、効果が検証されて残ったのではなく、分類として使われ続けて残ったものです。だから「4Pの効果を示すデータはあるか」という問いは、最初から噛み合いません。
これは4Pを否定する話ではありません。何を考慮するかを漏らさないためのフレームワークとして機能します。そのフレームワークに対して、施策と同じ種類の根拠を要求しない、というだけです。
経験則・法則には、検証と但し書きがセットで付いてくる
一方で60:40のような経験則には、統計的な分析が背後にあります。Binet & Field の一連の報告書は IPA Effectiveness Databank を分析したもので、IPAが発行しています。
出典:The Key Works of Les Binet & Peter Field(IPA)
ここで重要なのは、検証があるものには、たいてい但し書きも付いていることです。
B2B向けの報告書(LinkedIn B2B Institute「The 5 Principles of Growth in B2B Marketing」、全38ページを読了)には、著者自身がこう書いています。
- findings are tentative(暫定的である)
- B2B事例は少なく、標本は50件未満
- IPA Databankは効果の高いキャンペーンに偏る
- 英国に偏る
- 予算が比較的大きい案件に偏る
比率についても「厳密に従うべきではなく指針。小標本のため粗い推定しかできない」と明記されています。
出典:The 5 Principles of Growth in B2B Marketing(Binet & Field)
経験則を使うときに確認すべきなのは、数字そのものより、その数字がどの標本から導かれたかです。
発想法の事例には、成果数値がないことがある
JTBD(Jobs to Be Done)の代表例として広く紹介されるミルクシェイクの話は、Christensen / Cook / Hall の論文で初めて紹介されました。HBSが公開している抜粋で全文を読みました。
出典:What Customers Want from Your Products(HBS Working Knowledge、2006年1月16日)
原典には、この事例の売上・利益などの成果数値が一切書かれていません。 より濃くする、果肉を入れる、機械をカウンター前へ移してプリペイドカードで売る、といった改善案は述べられていますが、実施結果の記載はありません。全文を読んで不在を確認しました。
これは「JTBDに効果がない」という意味ではありません。原典が効果測定の事例として書かれていないということです。発想法の説明例です。
だから、この事例を「JTBDで売上が伸びた例」として数値を伴わせて紹介すると、原典にない話を足すことになります。
成長の実装には、個別企業の数値がある
AARRR のような実装寄りの枠組みには、個別企業の公開数値が付くことがあります。
Dropbox の紹介プログラムについて、創業者 Drew Houston 本人の講演資料(2010年)にはこう書かれています。
- 2008年9月に登録ユーザー10万人、15か月後の2010年1月に400万人
- 2面インセンティブの紹介プログラムがサインアップを恒久的に60%増やした
- 日次サインアップの内訳は、紹介プログラム経由35%、共有フォルダなど他のバイラル機能経由20%
出典:Dropbox Startup Lessons Learned(2010年)
数値はありますが、公開企業の自己申告です。第三者による検証ではありません。ここでも、数値を誰が示したのかを確認しておく必要があります。
4種類に分けると、提案の書き方が変わる
この4分類を通すと、提案の書き方が変わります。
「4Pで整理しました」に効果の根拠を添えようとしない。 整理の網羅性を示せば十分で、そこに数字を求めるのは種類の取り違えです。
「60:40で配分します」には、標本と但し書きを添える。 どの報告書のどの数字か、標本はどれだけか。それを書けないなら、指針として使っていると明示する。
「JTBDで成功した事例があります」と言うときは、その事例に数値があるか確かめる。 原典に無ければ、発想法の説明例として紹介する。
「他社は紹介プログラムで伸びた」と言うときは、自己申告かどうかを見る。 検証されたデータと、企業が自分で出した数字は違います。
提案の根拠が崩れるのは、たいてい根拠の種類を取り違えたときです。数字がないことより、ないものをあるように見せることのほうが問題になります。
よくある質問
Q. この4分類は、誰かが提唱している学説ですか?
A. 違います。 一次情報を確認したうえで、この記事で整理したものです。 学術的に確立した分類ではありませんし、そう呼べる根拠もありません。
分類の中身(4Pが複数の並立分類から生き残ったこと、B2B報告書が標本50件未満と明記していること、ミルクシェイクの原典に成果数値がないこと)は、すべて一次資料で確認した事実です。その事実を4つにまとめた線引きのほうが、この記事の判断にあたります。
線の引き方が違えば、別の分け方もあり得ます。そのまま定義として引用するのではなく、根拠の種類を分けるという考え方のほうを使ってください。
Q. 見たことのないフレームワークに出会ったとき、どの種類か見分ける方法はありますか?
A. 3つ順に聞くと、たいてい決まります。
- 「これを使わなかった場合」と比べられるか。 比べられないなら整理・計画のフレームワークです。4Pを「使わない」状態は定義できません
- 数字の裏に、母集団と期間があるか。 あるなら経験則・法則です。60:40なら IPA Databank、期間は1998–2018のように追えます
- その数字は誰が出したか。 第三者の分析なら経験則、当事者の自己申告なら成長の実装です
どれにも当てはまらず、事例だけがあるものは発想・分析の手法です。JTBDがここに入ります。
見分けがつかないときは、成果数値が付いているかどうかを最初に見ます。 数値がないものに効果の根拠を求めても、出てきません。
Q. 「4Pに効果の根拠はあるの?」と聞かれたら、どう答えればいいですか?
A. 「ありません」で終えると、フレームワークごと否定されます。 3段階で答えます。
- 問いを言い換える。 「4Pの効果を測った研究はありません。4Pは施策ではなく、考慮する変数の分類だからです」
- 代わりに何を測るかを示す。 「測れるのは、4Pで洗い出した個々の施策のほうです。価格を変えた、チャネルを変えた、その結果どうだったか」
- フレームワークの役割を言う。 「4Pの役割は、検討漏れを防ぐことです。効果を出す手法ではなく、抜けを見つけるためのチェックリストです」
問い自体が噛み合っていないことを、否定せずに伝えるのがポイントです。「根拠がない」と言うと、相手には「使えない」と聞こえます。
Q. 提案書には、どの種類のフレームワークから使えばいいですか?
A. 順番があります。整理のフレームワーク → 発想の手法 → 経験則 → 実装です。
- 整理のフレームワーク(4P・3C・SWOT)を最初に置くのは、検討漏れを見つけるためです。ここで抜けを潰しておかないと、後の施策が偏ります
- 発想の手法(JTBD)は、整理で出た項目に中身を入れるときに使います
- 経験則(60:40・95:5)は、配分や優先順位を決める段階で出します。先に出すと、前提を確かめる前に数字が独り歩きします
- 実装(AARRR)は、施策が決まってからです
経験則を冒頭に置いた提案書は、たいてい数字が結論になっています。 順序を守るだけで、その事故が減ります。
Q. 経験則の但し書きは、提案書にどこまで書くべきですか?
A. 1行でよいので、必ず入れます。 全部は書きません。
入れるのは**「その数字が壊れる条件」**です。60:40なら「標本50件未満・英国中心・受賞応募に偏る」のうち、相手に関係するものを1つ。日本のBtoB企業に出すなら「英国中心の小標本」の一言で足ります。
書く場所は数字の直後です。 脚注や巻末に回すと、読む人と読まない人が分かれます。数字と但し書きが同じ行にあれば、切り離して引用されにくくなります。
判断が変わらない但し書きは省いて構いません。判断が変わるものだけを残すと、たいてい1行に収まります。
まとめ:フレームワークを選ぶ前に、根拠の種類を先に見る
- 同じ「フレームワーク」でも、根拠の取れ方は4種類に分かれる——整理・計画のフレームワーク、経験則・法則、発想・分析の手法、成長の実装
- 整理のフレームワークに効果の根拠を求めるのは噛み合わない。 4Pは施策ではなく、考慮する変数の分類として生き残ったもの
- 検証がある経験則には、たいてい但し書きも付いている。 数字より、どの標本から出たかを見る
- 発想法の事例に成果数値があるとは限らない。 ミルクシェイクの原典には売上・利益の記載がない
- 実装の数値は自己申告のことがある。 誰が出した数字かまで確認する
- 提案書で使う順番は、整理 → 発想 → 経験則 → 実装。経験則を先に出すと、数字が結論になる
出典一覧
| # | 出典 | 発行 | 確認状況 |
|---|---|---|---|
| 1 | The 4P Classification of the Marketing Mix Revisited(Van Waterschoot & Van den Bulte、Journal of Marketing 56(4)) | 1992年10月 | 全12ページを抽出し、歴史記述の該当箇所を読了 |
| 2 | The Key Works of Les Binet & Peter Field(IPA) | 掲載日不明 | 本文確認 |
| 3 | The 5 Principles of Growth in B2B Marketing(Binet & Field、LinkedIn B2B Institute) | 発行年の記載なし(分析対象1998–2018) | 全38ページを抽出して確認 |
| 4 | What Customers Want from Your Products(Christensen / Cook / Hall、HBS Working Knowledge) | 2006年1月16日 | 該当事例の全文を読了 |
| 5 | Dropbox Startup Lessons Learned(Drew Houston) | 2010年 | 本文確認(数値スライドを取得) |
いずれも2026年8月17日に確認しています。
執筆者
Web Director for SEO & Content。フレームワークの役割と、根拠の種類を分けて説明します。